アジア自転車競技選手権大会ロードレース観戦紀行・その4

その3から続く)

1月23日、土曜日。出発する前にまずは朝食を。

時間もあまりないため会場に向かえる準備をして宿の食堂へ。和食なのだけれど珍しく出された料理が久々に口に合わなかった。ほどほどにして出発。

少し寒くきょうは冬らしい天気。宿のほうが少し高台にあるので伊豆半島との間の航路がよく見える。自衛隊海上保安庁?それらしきグレーの船が航行するのが見える。

 

メイン会場の準備が進む中、フィニッシュラインのゲートが設置されていたので自転車でガッツポーズをしながら通過するとどこからともなく笑い声が聞こえてくる。きょうは抽選会もあるので早くからたくさんの人が集まっている。きのうは無かった飲食のブースも出ているのでまずはひと安心。

スタート時間が近づくとキャラバンの前方の隊列が準備される。チームのサポートカーが入るレースはそうそう無いのでこれだけで盛り上がってくる。

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いろいろな車両がいる中、レース中に情報を伝えるインフォメーションのモトは前の運転する人の背中に選手のリストを貼ってすぐに確認できるようにしている。

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午前は男子アンダー23で119.0kmの10周回。

御神火太鼓のデモンストレーションで盛り上がったあとに定刻にスタート、なのだけれど、ニュートラルを無視してパキスタンの選手がいきなり飛び出す。そこにシリア・アラブ共和国の選手が続こうとしたので第2コミセールカーからけたたましくクラクションが(笑)。

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きょうも2周目はきのうと同じ登りで観戦。イラン・イスラム共和国チームを先頭に。

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キャラバンの通過を見届けると裏道をつたい海沿いのパームラインへ出てその後の様子を見守る。

レッグウォーマーを着けている選手も多くかなり寒いのだけれどモンゴルチームは半袖の選手がほとんど。見ているほうが肌寒く感じるのだけれど、今のモンゴルはマイナス40℃ほどらしく、彼らにしてみれば日本の冬は全然暖かいらしい。

アジアは広く、温暖な地域のチームは寒さで一気に弱っている。

 

3周目はイラン・イスラム共和国チームを先頭に3名の逃げが形成される。日本チームは小橋勇利選手を送り込んでいる。

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少し北上してパームラインのピークで4周目を見るが、引き続き同じ逃げグループが出来ている。

男子アンダー23にもなればチームプレーが行われていて見る側も熱くなる。

 5周目は御神火温泉の付近に戻って見たけれど展開は同じ。ばらけた集団から数名が先頭の逃げに合流を試みている。6周目には合流した模様で日本は徳田優選手が逃げグループに合流。

そろそろメイン会場のほうに戻ろうと元町港から少し進んだところへ移動して、自転車を停めていると、モンゴルチームのスタッフが興味深そうに見ている。シクロクロス用の自転車は珍しいらしい。

7周目。

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イラン・イスラム共和国チームがチャンスを作ろうと積極的に動いている。きのうの男子ジュニアのレースではそうでもなかったけど、この年齢になるとフィジカル面で上回っている雰囲気が感じられる。

8周目の終わり。日本はチャンスを逃したのか脱落している模様。ベトナムのHuynh Thanh Tung選手は単騎ながらも上手く流れにのっている。

 

最後の周回へ入る頃にはイラン・イスラム共和国のMehdi Rajabikaboodchesheh選手がほぼ王手を掛けた感じになる。そして余裕のフィニッシュ。 

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3位に入ったMohammad Ganjkhanlou選手も早くに勝利を確信した模様。

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大島へ渡る船で見かけたイラン・イスラム共和国チームの寡黙さとは違い、彼らの顔に笑みが現れる。そして誇らしげなHuynh選手。

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2位のHuynh Thanh Tung選手、1位のMehdi Rajabikaboodchesheh選手、3位のMohammad Ganjkhanlou選手。

 

伊豆大島イラン・イスラム共和国の国家が流れる。これはかなりすごいことなのでは、と感じる。

その5に続く)

アジア自転車競技選手権大会ロードレース観戦紀行・その5

その4からの続き)

午後は個人的メインイベントの女子エリート。107.1kmで9周。

萩原麻由子選手がWiggle High5(以前のWiggle HONDA)で活動するようになって、UCI女子エリートカテゴリーについていろいろなことを少しずつ知るようになった。

ここ2年ほどインターネット上で、主にテキストで追ってきたUCI女子エリートレースを生で観戦できる嬉しさを胸にスタートを待つ。

きのうに比べるとレースとレースの合間に少しだけ余裕があるので、飲食ブースで売られていたおでんを食べて午後のレース観戦に備える。

 

少ない情報の中で知った限りではUCI Women`s Teamで登録をしている選手を揃えているのはカザフスタンと中国。カザフスタンはAstana Women's Teamが、中国はChina Chongming LIV Champion Systemがそのまま参戦しているに等しい。

韓国はUCI Women's Teamに現在登録している選手はいないけれど、ナショナルチームでの活動がメインのようだ。鍵を握っているのはこの3チームという予想。

 

定刻にスタート。

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1周目が終わったキャラバンを今回も同じ登り始めで見届けることにする(実際に走って感じることとは違うかもしれないけれど、現地で見た限りのことで状況を書いてみる)。

カザフスタンのNatalya Sokovnina選手がペースを作っているように見える。続いて韓国のLee Jumi選手とKim Hyunji選手。その後ろに坂口聖香選手。

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まだ集団はひとつになっていて、こぼれた選手も少なくキャラバンの通過は早い。見届けるとルーチンワークのように再びパームラインへ。

風速は4メートルほどで、海沿いはやや追い風。集団はひとつ。

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ヘリコプターを使った空撮を行っているらしく、キャラバンがどのあたりにいるのか遠くから分かるのは非常にありがたい。次の周回が来るまでにパームラインを北へ。

 

パームラインのピークを過ぎた先に少しだけ遠くに下り坂が見えるポイントがあったのでここで写真を撮ろうかな、と思い道路の反対側に場所を探す。公式カメラマンの田中苑子さんが先着されていて同じほうへレンズを向けて待機していた。

田中さんの撮影するプロトンと風景の写真が好きなので、同じ場所を見つけたのはちょっとうれしい。

邪魔にならないようにもう少し先の田中さんのファインダーの死角になる場所へ移動する。

 

それにしても牽制がかかっているのか3周目は恐ろしくレースの進行が遅い。通り過ぎたレースディレクターが少し先で完全に車を止めてしまって選手が来るのをしばらく待ってしまったぐらいである。

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そしてようやく遠くに通過するプロトンを確認。

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目の前を集団が通過していく。

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このコースだと早くにリストラが行われるかと思ったけれど牽制がかかっているようだ。

 

少しメイン会場から遠くまで来てしまった感じなので、次の周回が来るまでに御神火温泉のそばまで急いで戻る。

4周目も集団はひとつ。この周はペースが上がった感じでカザフスタンと韓国が先頭。観戦仲間の知り合いもきたので世間話をしつつ、同じ場所で次の周回まで過ごす。

5周目、ようやく逃げが形成。カザフスタンのMakhabbat Umutzhanova選手を先頭に4名が先行。韓国のKim Hyunji選手、ベトナムのNguyen Thi That選手、そして日本の金子広美選手。

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ようやくレースらしくなってきた。後方では中国チームが3人使ってアタックを潰しにかかっているような雰囲気。

 

フィニッシュまでにメイン会場へ少しずつ戻ることに。次の6周目、目の前を選手が通過するまでには先ほどのアタックは吸収されて再び集団はひとつに。韓国はLee Jumi選手が積極的に動いている。

7周目は大島警察署の前の交差点で観戦。カザフスタンのNatalya Sokovnina選手が再び積極的に引き韓国が全力でチェックする流れに見えた。

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金子選手が萩原選手を手厚くアシストしている。

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メイン会場に戻りフィニッシュを待つ。8周目に入っているため次に選手を見るときは最後の周回に入るタイミングになる。実況で萩原選手と韓国のNa Ahreum選手が逃げていることを知る。さらに二名が合流したと。

 

情報は耳に入る実況だけである。気が気でない。そして最後に目の前でスプリント勝負をNa Ahreum選手が下す。

 戦略的に成功したのは韓国。日本には最後の局面でよいカードが回ってこなかった。攻め続けたカザフスタンも然り。レースとは水物なのだと思う。

 

目の前で起こった出来事が上手く心の中で整理できないけれど、萩原選手が3位に入ったので急いで表彰台の前へ移動する。きょうは抽選会もあるのできのうとは違いあっという間に100名近い人が。ゴール後の囲み取材をしている後に来たメディアの方が撮影場所を確保出来ないほどに人が集まっている。

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2位のPu Yixian選手、1位のNa Ahreum選手、3位の萩原麻由子選手。

 

表彰式の最中に大粒の涙がひとつ、萩原選手の頬を伝う。きょう見たかったのはそれではないのだけれど。韓国の国歌が流れ終わると出来る限り大きく拍手をしてみる。

韓国ナショナルチームが勝利を祝い記念撮影をしている。

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左からGu Sungeun選手、優勝したNa Ahreum選手、Kim Hyunji選手、 Lee Jumi選手。

 

朝食のことを引きずっているのか宿にあまりいたくない。宿に戻るとまずは明日の朝食がいらない事を丁寧に告げる。

どこに向かおうか決めかねたまままた宿を出てひたすら歩き続ける。

 そして土曜日だというのにきょうは店もほとんど開いていない。歩き疲れた先に見つけた元町港のベンチに腰をかけ、暗くなるまできょう撮影した写真を眺めて気持ちを整理していた。

 この寂しさはなんだろう。急に早く家に帰り家族に会いたくなってしまった。いまここに一人でいる事を申し訳なく思う。

 

そして夕食にありつけないことがなおさら辛くさせる。スーパーで手に入れたヤマザキのランチパックと魚肉ソーセージが夕食になる。とてもひどい気分で早く家に帰りたい。

 

電気をつけっぱなしたまましばらくうとうととする。

その6へ続く)