アジア自転車競技選手権大会ロードレース観戦紀行・その6

その5からの続き)

いろいろと最低な土曜日の夜。それでも朝になれば日曜日。一度目が覚めたところで電気を消して少しでも寝ることにする。

 

1月24日。

寝足りてない感じもするけれどスマートフォンのアラームに起こされる。出かけた日と同じように全ての荷物をパッキングして、宿の方にお礼を言って暗いうちに元町港に向かう。

風は強いけれど目の前の大きな月に励まされる感じがする。こうした風景は写真には納まりにくいので心のシャッターを切って胸に焼き付けておく。

上陸した朝と同じように再び「おともだち」へ。ここでの朝食が一番落ち着く。

マスターとまた世間話をする。しばらくすると観戦のために今朝着いた船で島に着いた方が数名来店される。たぶんではあるけれど知り合いの知り合いぐらいの方のようで心強い。

食べ終わって店を出たけれど風が強いのでしばし港の待合室で時間をつぶすことにする。

 

そろそろかな、といったタイミングを見計らってメイン会場へ。日曜日で男子エリートということもあってかなりの方が今朝の船で渡ってきたようだ。知った顔に挨拶をしたりされたり。8メートル近い風をのぞけば晴れで、自分にとっては居心地のいいところに戻ってきた気がする。

 

今朝も同じように「いつもの場所」に移動してスタートを待つ。目の前にモト・コミセールが並ぶといよいよ最後のレースが始まる。男子エリートは154.7kmの13周回。

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 そして今朝も定刻にスタート。

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今回は登り始めへは行かず海沿いのパームラインへ。御神火温泉の駐車場へは降りずにもう少し先の町道との分岐まで移動したけれど突風で波飛沫が強く近寄れない。薄く小さな虹が目の前にできるほどだ。テトラポットに白く波がくだける。

1周目はニュートラルスタートということもあるかもしれないけれど、ラップタイム的にレースの進行が限りなく遅れている。ファーストアタックはマレーシアとベトナムの選手。

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 先へ進んで写真を撮りたいのだけれど波飛沫がすごい。まずはカメラに雨用のカバーをつけてアウターウェアのフードを被って大丈夫な態勢を整える。

 

2周目も逃げが続くが集団は活性化しているように見える。そして次の3周目の通過までにイラン・イスラム共和国チームが上手く体制を整えたようだ。

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横風をよけるために3人だけでエシェロン(雁行)を作り3番目の選手が門を閉じてリードアウトを保っている。かなり強力なアタックのようだ。

イラン・イスラム共和国の選手は毎年ツアー・オブ・ジャパンであっさりと勝ってしまうような印象があって悪く言われることもあるけれど、こういったところで巧者なのだと思う。

最後尾は全員でエシェロンを形成するほどの突風である。

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さらに先に進んで大きく曲がるコーナーのある付近へ。4周目はトップグループは変わらず。

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トップグループで新城幸也選手とともに周回を重ねる別府史之選手。

 

きょうは周回数が多いので行けるところまで逆回りで観戦してみようと思い大島空港との分岐まで進む。

ちょうどすぐそばにイラン・イスラム共和国チームのスタッフがやって来た。大島へ渡る船で見た近寄りがたい雰囲気もきょうはなく逃げをきめた様子に嬉しそうだ。

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5周目の選手の通過のあと、この写真をカメラのモニター画面で見せて"Your team?"とわざとたずねてみた。"Yes!"と返ってきたので、"Very strong!"と返してそれとなくコミュニケーションをとってみる。嬉しそうな笑顔が返って来た。

そして周回数がここで変更になったようだ。トータル10周回の119.0kmに。強風による進行の遅れが影響したようだ。

 

6周目、空港のトンネルまで来たがイラン・イスラム共和国チームの逃げが続く。

7周目は大島一周道路と交差する下り区間の途中まで移動したところで観戦。イラン・イスラム共和国チームの逃げもそろそろ限界のようだ。

 

大島一周道路を元町港方面へ下り再びメイン会場に戻る。向かい風なのでなかなか進まない。8周目の先頭グループは通過した後に到着。

実況では香港のCheung King Lok選手が強力なアタックをした。トラック競技でも活躍しているので、詳しい方から先に名前を教えていただいていたので親しみがある(読み的には「チェンキンロー」や「チェンキンロッ」あたりが正しいようだ)。

 

新城選手が単独で追っているようだけれどタイム差が縮まらない。

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メイン会場に響く実況を頼りに最後の瞬間を待つ。差がなかなか縮まらない。

最後は逃げきってCheung選手が優勝を決めた。

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もしも距離の短縮がなければ捕まえるチャンスがあったかもしれないけれど、Cheung選手はトラック競技の長距離部門も走る選手。それゆえに持っている引き出しがまた違うけれども、今回は上手く合てはまったのだと思う。

 

表彰台の前に陣取る。きょうは200人ぐらいの人が集まってまたプレスの方が撮影する場所がないほどだ。ところが強引に私の座っている上でドカッと強引に乗って場所をとってくる人がいる。重いんだけど…どうやら香港チームの監督のようである。それならばぜひ、ということで少しだけ場所を空けて"Congratulations! "と言ってみる。

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 2位の新城幸也選手、1位のCheung King Lok選手、3位の別府史之選手。

 

香港の国歌(実際は中国の国家と同じだけれど)が盛大に響き、全てが終わった。

 

帰りは新中央航空で調布まで飛ぶ予定だったけれど、風が弱まらない。大会がチャーターした全日空機は着陸できなかったらしい。ただ電話で確認してみると聞き覚えのあるパイロットの声で、

「飛びます!」

と力強い返事をいただく。

大島空港まで移動して自転車を輪行パッキングをして15:30まで時間をつぶす。調布飛行場からの飛行機が着陸できれば、という条件付きなので、何人かはリスクを回避するためタクシーで岡田港に向かって大型客船に乗ったようだ。

しーんとしたフロアで待つことしばし。駄目だったらもう一泊か。もしそうなら少しいい宿を紹介してもらおうかな、などと考えて気を紛らす。

調布からの飛行機は定刻に無事に着陸。これであとは飛んでしまえばこの旅も終わる。

 

 

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小さなプロペラ機だけれど、乗り込んでしまえばあまり心配はいらない。励まされるように力強くエンジンが始動する。短い滑走の後、離陸。

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さっきまでいた場所が眼下に遠くひろがり少し切なくなる。少し揺れながらも時々うとうととしていると20分ほどで調布飛行場へ。

一刻も早く帰りたいのでタクシーを拾って自宅へ。

「ただいま。」

 

 何回かに分けて公開してきましたが、かなりの方に読んでいただきとても感謝しています。久しぶりに文章を書く楽しさみたいなものも思い出しました。

東京にいながら世界を感じた三日半でした。行きにいっしょになったイラン・イスラム共和国チーム、いっしょに写真を撮って欲しい頼んできたシリアの選手、他にもいろいろな方と片言で話したりでアジアを凝縮した時間はとても素敵でした。

 

伊豆大島は船か飛行機に乗れば案外近いところです。今度は全日本選手権が開催されますが、都合がつくようならそれ以外でも何かの機会にまた行ってみたいと思います。

ありがとうございました。

(翌週、トラック競技を伊豆ベロドロームに観戦に行った話へと続きます。)