ツール・ド・信州 2004

4日目、最終ステージ。3日間続いた晴天も今日までもたなかったのであった。未明から本降り、ゆうべの蒸し暑さで開けっ放しにしていた窓から雨粒が吹き込んでくるので目が覚めた。今日はいつもよりスタート時間が繰り上がっているので午前4時過ぎから朝食をとる。さすがに目覚め感は今ひとつ。
しかし昨年の信州は毎日こんな感じだったから、雨雲のように低いテンションも準備をはじめてしまえば上がってくる(でしょ?)昨日のステージ順位で一気に2位へと上がった関根選手、今日はどこまで狙えるか?そして川嵜選手はこの涼しさで回復できるのか?
本日のスタートも時間差を設けてのスタート、川嵜選手、斉藤選手がまず最初の組でスタート、そして関根選手がスタートしてしばらくしたらサポートカーもキャラバン後方で出発。この雨なら水の補給は急がなくてもいいだろう、という読みがあってのこと。
一発目は美女峠(868m)だが、ここは標高差200m程度なので山岳ポイントはなし。峠の先にわずかな下りが終わると、50km近くは登り調子、まずは鈴蘭高原の山岳ポイント前で一度補給の確認をするべくサポートカーはキャラバンの前へと。斉藤選手は安泰な第2集団で割と余裕の走り。しばらく行くと後発のトップグループの集団の最後に川嵜選手、どうやら先にスタートした組を追い抜く時に乗った模様、大丈夫なのか?しかしその心配通りにすぐ先の上りでスローダウン。「すぐおさむちゃんがいる集団が来るからそっち乗れるよ。」と伝えて先行。
鈴蘭高原への分岐を過ぎて本格的な上りがはじまると、今日は小嶋選手と高橋選手の京大師弟組が先行、関根選手に補給の確認をしたところ、まだいいとのこと。しかし二人を先行させた焦りの色は見て取れる。鈴蘭高原のポイント付近で一気に加速、雨の中、いつものまさに「紙一重」なキレのある下りでサポートカーが追い付くのが大変だ(あ、ポイント地点にうーさまがいたがあいさつもそこそこに先行)。
今日の天気ならおさ選手と川嵜選手への補給は頻繁に行わなくてもよさそうだし、勝負がかかった関根選手へのサポートを重視したいところ。そんなことを考えていると‥‥‥。
しばらく下った先でさっき先行した二人が止まっていた!本来のコースへの分岐の手前で迷ってしまったようだ、願ってもないチャンス!
濁河峠(にごりごとうげ)へ向かう狭い道を3人の逃げにサポートカーで並走しているうちにオフィシャルカーが来たがすぐ先で停まってこちらに合図をしている。
「すいませーん、後続で迷子続出なんでこの先しばらくオフィシャルを兼ねて走ってもらえませんかー?」
へ?ってカンジであるが、うむ、了解。後続が迷子ならなおのことだ、逃げてしまえ。その差は7分もあるらしい。
予想外の展開である。濁河峠に近づくにつれて雨脚もやや緩くなる。約2時間ほどたった頃、チームミヤタの小嶋選手が我々のところまで下がって来て水をねだる。「おっ!敵じゃないですかー。」しかし、である。困ったときはお互い様。なんとかこのままS根選手を後方から逃しアドヴァンスを確実にするには彼の力が必要。水ぐらいなら余る程積んでるのだからここはひとつスマイル0円である。
しばらくして京大・高橋選手もコーラをねだるが、残念!この車にそんな高尚なものは積まれてないのであった。だいたい奥多摩で練習してるときも誰もそんなものをボトルに忍ばせたことはないぐらいだから。関根選手に至っては2本のボトルのうち、1本は水、もう1本は何が入っているのかもよくわからないドロドログダグダとした琥珀色の流動体である(レシピはマジで不明、というかその場でいつも適当にやってるようでその日の出来不出来があるようだ)。
ここで僅かに駆引きがあったようだ。小嶋選手的には大学の後輩、高橋選手を逃がしたいが(関根選手との総合タイム差は7分弱なので総合2位でゴールできる読みがある)、関根選手との力はほぼ互角、出ればそのまま着いて行くだろうし、小嶋選手が本気で走れば高橋選手も潰してしまう。3人で行くしかないのが現状であった。そこで関根選手から高橋選手に何か出すように指示が飛ぶ。場をとりつくろうようにこの車の贅沢品、Mr.Gからの餞別のカーボショッツの水割りをお出ししておく。とにかく連れて行くしかないのだから。
選手の意志を押し潰しそうな曇天。小嶋選手以外の二人はさすがにしんどそうだ。濁河峠の最後の登りで少し遅れる。しぃかぁしぃ!あとは御岳の登り口までは下り基調だ、これで勝負はほぼ決まったようなものなのか?連日の疲れからか、高橋選手、一瞬コーナーでアウトに膨らみすぎてしまう、がなんとか無事。とにかく延々と下って行くのであった。
なんとかチェックポイントまで辿り着いた。ここで後方とのタイム差が10分はあると聞き、3人の緊張感が一瞬解ける。まだ準備中の大会スタッフからやや強引に補給を受けたり、用を足したり(これがまず最初の失敗であった)。ひと呼吸入れ、なおも御岳の麓へと下り基調のコースを走り続ける。そして昨夜のミーティングでも注意箇所とされていた難易度の高い県道20号への分岐にさしかかる。
「そこ右ーぃ!」
ところが、とぅこぅろぅがーぁ!である。3選手とも揃って「違う!」と主張(おいおい)。分岐図ではここは82.9km地点であるが選手のメーターではちょうど80kmぐらいなのである。「詳しい地図もっかい確認して!」と言われ、ツーリングマップルを開いた途端、3選手ともいきなりコースアウトして直進を始め視界から消えて行くではないか。バカバカバカバカバカーぁ!バカ!と女の子のように頭の中でつぶやいてみたが、時遅し。しかし(何度めのしかしなんだ?)ここで見事なタイミングでオーガナイザーの近藤さんを乗せた車が!無事3選手を連れ戻し、コースへ復帰できた。「だから言ったろー!」
この瞬間に、さっきのチェックポイントとコースアウトで出たロスタイムに頭が働いた者はいなかった。しかもコースアウトで3選手とも足取りが重くなってしまっている。まだ余裕でしょ、と思ったが確実に5分以上はせっかく作ったアドバンテージをロスしている。
なんとか王滝村の市街地まで来たが、足取りの重いのは関根・高橋選手であった。業を煮やした小嶋選手は二人を切り捨て御岳へのアプローチに進む。そしてダム湖の湖畔の道沿いを走っていると、ああ、ああ、追い付かれてしまっているではないか!せっかく作ったアドバンテージもなくなってしまいそうな勢いで後続の集団が追って来た。高坂・奈良・渥美・白石各選手である。地脚のある集団、関根選手、どうなんだ!
そして最後の補給をとサポートカーを停めた目の前を小嶋・白石選手が通過!
やられた、追って間に合うのか?というか追えるのか?あきらかに関根選手、黄昏モードである。後からは連日つらそうだった渥美選手が遅れ、高坂・奈良選手が熟成された力強いペダリングで迫って来る。高橋選手も斜度のキツいコースにやや戦意喪失気味。
御岳の上りに入ると関根選手、さすがに限界か?後方から一気にアタックに出て小嶋選手に食らいついた白石選手を追う力は明らかに残ってなさそう。しかしここで高橋選手との差を開け過ぎると総合3位も危ういではないか?
「水とか何かいるー?」
「いらん!」
あきらかに苦しそうだがこれはこらえてほしい。すでに先行してしまった選手が次々とゴールしている。最後の400mを無事クリアして関根選手、ゴール!無事総合3位は守り切った。
さあ、あとは置いてきてしまった二人がゴールすれば‥‥‥。岩DHI監督が車で最後のサポートへ。斉藤選手、川嵜選手、疲れつつも無事ゴール!
今年も本当に長い4日間となった。うーさん、長島さん、もりやん、安田さん、前半サポートの小野村さん、オフィシャル参加のNJK、そして遠くから応援してくれたみなさん、ああ本当にありがとうございます、と皆そろって感謝の気持ちでいっぱいである。無事にゴールまで辿り着くことが出来ました。